大分地方裁判所 平成4年(ワ)6号 判決 1993年8月26日
原告
吹田隆二
被告
工藤孝光
主文
一 被告は、原告に対し、三一九六万三四四八円及びこれに対する平成二年五月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は一〇分し、その三を原告の、その七を被告の負担とする。
四 第一項は仮に執行することができる。ただし、被告が一五〇〇万円の担保を供するときは、仮執行を免れることができる。
事実
一 原告の請求
被告は、原告に対し、八六九五万八三二八円及びこれに対する平成二年五月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 事案の概要
本件は、平成二年五月二〇日発生した後記交通事故で受傷した原告が、加害者である被告に対し、原告が被つた損害の賠償を請求する事案である。
三 当事者間に争いない事実
1 交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
日時 平成二年五月二〇日午前七時四〇分ころ
場所 大分市大字木上五六三番地 一宮酒店前交差点
加害者 普通乗用車(以下「被告車」という。)運転の被告
被害者 自動二輪車(以下「原告自二車」という。)運転の原告
事故態様 右場所において、被告車が原告自二車に衝突した。
2 損害
本件事故により、原告は、脊椎を損傷し、両下肢自動運動不能となり、原告自二車は大破した。
3 責任原因
被告は、所有する被告車を運転するに際し、右方の安全を確認すべき注意義務に違反した(民法七〇九条、自賠法三条)。
4 損害のてん補 七六二〇万円
原告は、自賠責保険から二六二〇万円、任意保険から五〇〇〇万円、以上計七六二〇万円の支払を受けた。
四 争点
1 過失相殺
(一) 被告の主張
本件事故は、被告車と原告自二車の交差点における出会頭の衝突事故であり、原告にも、左記過失がある。
(1) 前方不注視のまま、本件交差点に進入、通過しようとし、
(2) 本件交差点は信号機の設置はなく、見通しの悪い箇所であるのに、同交差点に進入するに当たつて、減速、徐行せず、
(3) 制限時速三〇キロメートルのところを、時速四〇キロメートルで走行した。
(二) 原告の主張
原告自二車の進行方向から被告車の進入の有無を確認することは困難であり、原告進行の道路が優先道路であるから、本件交差点に進入するに当たつて、原告に減速、徐行義務はない。
2 治療期間、後遺症(原告の主張)
原告は、本件事故日の平成二年五月二〇日から症状固定日の同年一二月一八日まで二一三日間、三愛病院と中村病院でそれぞれ入院治療を受けたが、第六胸椎部以下の完全まひ、知覚・運動障害の後遺症が残り、その程度は自賠法施行令別表(第二条関係)第一級三号に相当する。
3 原告の損害(原告の主張)
(一) 物損 一八万一五三八円
本件事故により原告自二車は大破したが、その修理代。
(二) 人損
(1) 治療費 五七六万六二〇〇円
平成二年五月二〇日~同年七月一九日分 一〇六万五三二〇円(甲六)
同年七月一九日~同年一〇月三一日分 一三八万七六五〇円(甲八)
同年一一月一日~平成三年五月三一日分 二一七万一二〇〇円(甲一〇)
平成三年六月一日~同年九月二九日分 一一四万二〇三〇円(甲一二)
右治療費の中には、平成二年一二月一八日の症状固定日以後の分も含まれるが、その分も、同一病院での治療であり、原告の後遺症の内容、程度から推して、相当な範囲内でのものであるから、本件事故との相当因果関係がある。
(2) 室料差額分 一七一万八四〇〇円
平成二年五月二〇日~同年七月一九日分 一八万五四〇〇円(甲六)
同年七月一九日~同年一〇月三一日分 三六万七五〇〇円(甲八)
同年一一月一日~平成三年五月三一日分 七四万二〇〇〇円(甲一〇)
平成三年六月一日~同年九月二九日 四二万三五〇〇円(甲一二)
原告の症状が重篤で、医師の指示に基づく個室使用であるから、本件事故と相当因果関係がある。
(3) 入院付添費 九五万八五〇〇円
一日当たりの付添費四五〇〇円の二一三日分。
(4) 入院雑費 二五万五六〇〇円
一日当たりの入院雑費一二〇〇円の二一三日分。
(5) 器具購入費 一〇万九〇六〇円
(内訳) 胸椎装具 一万四四〇〇円
胸椎フレーム 三万〇八〇〇円
車椅子 五万六六五〇円
円座 七二一〇円
(6) 休業損害 一六六万九二八八円
原告の本件事故直前三か月間の給与は五四万一二〇〇円であつたが、原告は、事故日から症状固定日まで二一三日間の休業を余儀無くされ、その間の給与及び一八一日間分の賞与として支給予定の三四万五〇〇〇円の支給を受けられなかつた。したがつて、原告の平成二年度の年収は二八六万〇五一八円と推認される。
541,200÷3×12+345,000÷181×365=2,860,518
よつて、原告の右二一三日間の休業損害は、一六六万九二八八円となる。
2,860,518÷365×213=1,669,288
(7) 逸失利益 九六二七万七三〇四円
原告(症状固定日当時三〇歳)は、後遺症により一〇〇パーセントの労働能力を喪失したが、六七歳まであと三七年間は労働可能であつた。そして、平成二年度の賃金センサスによれば、三〇歳男子労働者の平均年収は四六六万七九〇〇円であるから、中間利息の控除につき新ホフマン係数を用いて原告の逸失利益を算定すると、九六二七万七三〇四円となる。
4,667,900×20.6254=96,277,304
(8) 将来の付添費 三八六五万四一〇二円
原告の後遺症は、生涯にわたつて常に介助を必要とする。原告に対する一日当たりの付添費は四五〇〇円に相当するから、原告の平均余命四六年の将来の付添費を、中間利息の控除につき新ホフマン係数を用いて算定すると、三八六五万四一〇二円となる。
4,500×365×23.5337=38,654,102
(9) 家屋改造費 五四〇万円
原告は、後遺症のため、家屋の改造を余儀無くされたが、その費用五四〇万円。
(10) ベツド等購入費 一一八万〇三八〇円
原告は、後遺症のため、自力で起伏が困難なため三九万三四六〇円の電動式ベツド一式を購入した。今後、さらに少なくとも二回、同額の電動式ベツド購入の必要性があるので、その合計一一八万〇三八〇円
(11) 自動車改造費 一三六万五〇〇〇円
原告は、後遺症のため、普通自動車に一九万五〇〇〇円をかけて改造した。今後、さらに、六年ごとに計六回、自動車の買換えごとに同額をかけて改造する必要性があるので、その合計一三六万五〇〇〇円。
(12) 将来の車椅子、円座購入費 六五万九二〇〇円
原告は、後遺症のため、車椅子五万六六五〇円、車椅子に敷く円座九二七〇円が必要である。今後、さらに、三年ごとに計一〇回、同額の車椅子、円座購入の必要性があるので、その合計六五万九二〇〇円。
(13) 自己導尿セツト、紙オムツ、濡れテイツシユ等購入費 五〇万円
原告は、意識的な排尿、排便ができず、自己導尿セツト、紙オムツ、濡れテイツシユ等が必要である。既に支出した分と将来の購入費分合計五〇万円。
(14) 慰謝料 二六四二万円
原告の受傷、入院期間分の慰謝料は二四二万円、後遺症の慰謝料は二四〇〇万円が相当である。
(15) 弁護士費用 一〇〇〇万円
4 原告の請求
よつて、原告は、被告に対し、3の(一)及び(二)の総合計一億九一一一万四五七二円から、てん補分七六二〇万円を差し引いた一億一四九一万四五七二円のうち、八六九五万八三二八円及びこれに対する本件事故日の平成二年五月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
五 証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。
理由
一 本件事故の態様
当事者間に争いがない事実及び証拠(甲三一、乙一、二、四、八、九、原告、被告)によれば、次のとおり認められる。
1 本件事故現場の状況
本件事故現場の状況の概略は、別紙現場見取図(乙四の実況見分調書中の交通事故現場見取図第2図)に記載のとおりであり(以下の符号は、同図中のそれを指す。)、本件事故現場は、アスフアルト舗装、幅員五・八メートルの、宗方方面から野津原町方面に向けて上り勾配の片側一車線の道路(国道四四二号線。以下便宜「本件道路」という。道路標示により中央線が表示され、追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止、速度規制時速三〇キロメートルの交通規制がある。)と、同道路に木上新町方面からほぼT字型に下り勾配で交差してくるアスフアルト舗装、幅四・九メートルの道路(以下便宜「本件T道」という。)に、さらに、ほぼ東から本件道路と本件T道との中間に、口戸方面からアスフアルト舗装、幅三・七メートルの道路が上り勾配で交差する変形交差点(以下「本件交差点」という。信号機は設置されておらず、交通整理も行われていない。)内である。本件道路は、同交差点から宗方方面に向けては、ほぼ直線状であるが、野津原町方面に向けては、やや右側にゆるやかなカーブを描いている(甲三一の<1>、<7>、<8>の写真)。
本件交差点東側に民家があるため、本件道路の宗方方面から同交差点に進入するに際しての木上新町方面及び口戸方面の見通しも、本上新町方面及び口戸方面から同交差点に進入するに際しての宗方方面への各見通しも相互に極めて悪く、木上新町方面から同交差点に進入した後の
点(運転席の位置。以下車両の位置はいずれも運転席の位置を示す。)から、宗方方面は、肉眼で、七・五メートル右斜め前の本件道路上の
’までしか見通すことができず、同交差点内に設置されているカーブミラー二個のうち一宮酒店前に設置されたもの(以下「本件カーブミラー」という。)を注視すれば、<2>点から、同交差点より約五〇メートル宗方方面寄りの車両を現認することができる(乙四)。
同様に、本件道路の宗方方面から同交差点に進入するに当たつても、本件カーブミラーを注視すれば、かなり手前の地点で木上新町方面から同交差点に進入済みの車両を現認することはできるが、同交差点進入前の車両の現認が十分にできるわけではない(甲三一の<1>、<8>の写真、原告・五六項、五八項、六九項)。
2 被告車の動き
被告は、被告車を運転して、本件T道を木上新町方面から本件交差点に進入して宗方方面に右折すべく、<1>点でブレーキを踏んで一時停止し、口戸方面から同交差点に進入してくる車両のないことを確認して同交差点に進入し、<1>点から九・九メートル進行した<2>点で一時停止し、まず、本件道路左方(野津原町方面)を見て、同交差点に進入してくる車両のないことを確認し、次いで、右方(宗方方面)を、肉眼で見て同交差点に進入してくる車両がないことを確認し、本件カーブミラーでも確認した際、朝日の反射のためよく見えなかつたが、四輪車以上の車両が目に入らなかつたので安全だと判断し、右折を開始すべく、時速五ないし一〇キロメートルに加速して<3>点まで二・七メートル進行したところ、右前方九・七メートルの<ア>点に、本件道路上を宗方方面から同交差点に向け直進してくる原告自二車を発見し、危険を感じて直ちに急ブレーキをかけたが、効を奏せず、<3>点から一・七メートル進行した<4>点で停車した自車の右前部<×>点に、原告自二車前部を衝突させる本件事故が発生した。
3 原告自二車の動き
原告は、原告自二車(軽二輪)を前照灯をつけ、時速四〇キロメートル(秒速約一一メートル)で運転して、本件道路左側車線を道路左端から約一メートルの所を宗方方面から野津原町方面に向け、本件交差点付近にさしかかつたが、かねて、同交差点左方向の見通しが悪く、本件カーブミラーを見れば、同方向から本件交差点内に進入済の車両を、かなり手前から現認できることを知つていた(原告・五六~五八項)。原告は、本件事故当日、前方を肉眼で注視したものの、同カーブミラーを注視せず、自車を道路中央にわずかに寄せただけで同交差点に進入、通過しようとして同速度で進行中、同交差点直前で、左方向から同交差点に進入し、宗方方面に右折を開始していた被告車を発見すると同時に危険を感じ、ハンドルを右に切り、車体を右斜めにして衝突を避けようとしたが、効を奏せず、<×>点で自車前部を被告車右前部に衝突させる本件事故が発生した。
二 争点1(過失相殺)について
右一の事実によれば、被告は、被告車を運転して、木上新町方面から本件交差点に進入し、宗方方面に向けて右折するに当たつては、交差道路である本件道路が優先道路であるから、宗方方面から同交差点に向け進行してくる車両の進行を妨害してならないのはもちろんのこと(道路交通法三六条二項)、右方(宗方方面)の見通しが悪く、肉眼では、木上新町方面から本件交差点に進入した後の
点から七・五メートル右斜め前の
’点までしか見通すことができず、本件カーブミラーを注視して始めて、<2>点から、同交差点より約五〇メートル宗方方面寄りの車両を現認することができるにすぎないのであるから、朝日の反射のため同カーブミラーを注視して右方の確認ができ難いときは、徐行しつつ(同法四二条一号)、右方の安全を確認して、右折を開始すべき注意義務があるのに、これを怠り、<2>点で一時停止し、同カーブミラーで右方を確認した際、朝日の反射のため、右方(宗方方面)がよく見えなかつたのに、四輪車以上の車両が目に入らなかつたことから安全だと速断して、右折を開始した重大な過失により、本件事故を起こしたものである。
他方、原告は、原告自二車を運転して、本件道路から同交差点に進入、直進するに当たつては、前記のとおり、本件道路が優先道路であり、原告に徐行義務はない(同法四二条一号)とはいえ、原告の進行方向から同交差点左方向(交差道路)への肉眼での見通しは悪く、本件カーブミラーを注視して始めて、相当手前から木上新町方面から同交差点に進入済の車両を現認することができるから、同カーブミラーを注視して、同方面から同交差点に進入、右折する車両の有無に注意し、できる限り安全な速度と方法で進行すべき注意義務がある(同法三六条四項)のに、これを怠り、同カーブミラーを注視することなく、制限速度三〇キロメートルのところを、時速四〇キロメートル(秒速約一一メートル)で直進し、同速度のまま同交差点に進入した過失により、本件事故を起こしたものである。
そして、本件事故は右両過失が競合して発生したものというべきであるところ、両過失の内容、その他前記認定の諸般の事情を総合すると、原告、被告の過失割合は一五対八五と認めるのが相当であるから、過失相殺の法理により、原告に生じた損害の八五パーセントを請求できるにすぎない。
三 争点2(治療期間、後遺症)について
当事者間に争いがない事実及び証拠(甲二、五~一三、一六、原告)によれば、原告(昭和三五年四月二二日生)は、本件事故により、外傷性頚椎症、右鎖骨骨折、肋骨骨折、右肋骨多発骨折、胸椎圧迫骨折、胸部脊椎損傷等の傷病名で、医療法人社団三愛会三愛病院に本件事故日の平成二年五月二〇日から同年七月一九日まで入院(甲五、六)、同病院の退院当日、リハビリテーシヨン目的のため、大分中村病院に転院して平成三年九月二九日まで入院(以上の入院期間合計は一年と一三三日間)(甲七ないし一二)、その間の平成二年一二月一八日、右傷病に基づく原告の症状は、他覚的には、脊髄損傷(第六胸髄節以下完全まひ)、知覚・運動障害、病的反射、自覚的には、両下肢自動運動不能がそれぞれ認められて、症状固定と診断され(甲二。同日までの入院期間は二一三日間)、大分調査事務所長により、自賠法施行令別表(第二条関係)第一級第三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの。)に該当するとの認定を受けた(甲一六。以下「本件後遺症」という。)ことが認められる。
四 争点3(原告の損害)――物損について
一八万一五三八円
原告自二車が本件事故により大破したことは当事者間に争いがなく、証拠(甲三七、乙二、七)によれば、その修理に一八万一五三八円の費用を要するものであつたことが認められるから、同金額を損害と認める。
五 争点3(原告の損害)――人損について
1 治療費 五七六万六二〇〇円
前記三認定の事実及び証拠(甲六、八、九、一〇、一二、原告)によれば、原告は、本件事故による治療のため、三愛病院分(平成二年五月二〇日から同年七月一九日までの分)一〇六万五三二〇円(甲六)、中村病院分として、同年七月一九日から同年一〇月三一日までの分一三八万七六五〇円(甲八)、同年一一月一日から平成三年五月三一日までの分二一七万一二〇〇円(甲一〇)、平成三年六月一日から同年九月二九日までの分一一四万二〇三〇円(甲一二)、以上合計五七六万六二〇〇円を負担したこと、原告の症状は、平成二年一二月一八日固定したのであるから、右治療費の中には、症状固定後の分も含まれるが、原告は、症状固定の診断を受けた病院で、症状固定後も引き続き、後遺症である脊髄損傷によるまひの治療のため、定期的に処置、リハビリ及び薬物療法による加療及び精査を必要とし、しかも、尿路管理、様子観察のため個室を必要としていたことが認められるところ、原告の後遺症の内容、程度から推して、症状固定後の右治療分も本件事故と相当因果関係があるものと認められる。
2 室料差額分 一七一万八四〇〇円
右1認定の事実及び証拠(甲六、八、一〇、一二、原告)によれば、原告は、本件事故による治療上、個室を必要としていたところ、その費用として、三愛病院分(平成二年五月二〇日から同年七月一九日までの分)一八万五四〇〇円(甲六)、中村病院分として、同年七月一九日から同年一〇月三一日までの分三六万七五〇〇円(甲八)、同年一一月一日から平成三年五月三一日までの分七四万二〇〇〇円(甲一〇)、平成三年六月一日から同年九月二九日までの分四二万三五〇〇円(甲一二)、以上合計一七一万八四〇〇円を負担したことが認められる。
3 入院付添費 九五万八五〇〇円
前記三認定の事実及び証拠(甲六、八、一〇、一二、吹田ヱミ子、原告)によれば、本件事故日から症状固定日まで二一三日間の入院中の原告は、脊髄損傷によるまひに起因する、尿路、排便管理のため、個室での介助を要する状態にあり、原告の母ヱミ子が終始原告に付き添つていたことが認められるところ、一日当たりの付添費は四五〇〇円を相当と認めるので、二一三日間分の小計は九五万八五〇〇円となる。
4 入院雑費 二五万五六〇〇円
一日当たりの入院雑費は一二〇〇円が相当であるから、原告が入院した症状固定日まで二一三日間の雑費小計は二五万五六〇〇円となる。
5 器具購入費 一〇万九〇六〇円
前記認定の事実及び証拠(甲一三ないし一五、原告)によれば、原告は、本件後遺症の脊髄損傷により、胸椎装具、金属枠の装着を必要とするとの医師の判断のもとに、一万四四〇〇円の胸椎装具、三万〇八〇〇円の胸椎フレームを購入し(甲一三)、さらに、日常生活の移動用に五万六六五〇円の車椅子、これに敷く円座を七二一〇円で購入した(消費税込み。甲一四)ことが認められるから、以上小計は一〇万九〇六〇円となる。
6 休業損害 一六六万九二八八円
証拠(甲三、四、原告)によれば、原告は、本件事故当時、大分不二サツシ販売株式会社に会社員として勤務し、平成二年二ないし四月分として五四万一二〇〇円の給与を得ていたこと(甲三)、平成三年一月一日から同年六月末日まで一八一日分の賞与として三四万五〇〇〇円が支給予定であつたが、前記三の入院治療のため欠勤し、右賞与の支給はなかつたこと(甲四)が認められるから、これらをもとに、平成二年分の原告の年収を算定すると、二八六万〇五一八円(円未満切捨て。以下同じ。)と推認される。
541,200÷3×12+345,000÷181×365=2,860,518
そこで、原告が休業を余儀無くされた症状固定日までの二一三日間の休業損害を算定すると、一六六万九二八八円となる。
2,860,518÷365×213=1,669,288
7 逸失利益 四七八〇万二六八八円
前記三及び右6に認定の各事実及び証拠(吹田ヱミ子、原告)によれば、原告(症状固定日当時三〇歳)は、本件後遺症により一〇〇パーセントの労働能力を喪失し、勤務先をやがて失職したものと推認される。原告は、症状固定後、六七歳まであと三七年間は労働可能であると推認されるから、その間の逸失利益の症状固定日当時における現価を、中間利息の控除につき、ライプニツツ式(係数一六・七一一二)によつて算定すると、四七八〇万二六八八円となる。
2,860,518×16.7112=47,802,688
原告は、本件事故発生当時の平成二年度の賃金センサスを基準にして、右逸失利益を算定すべきであると主張するが、逸失利益の算定はあくまで予測であり、本件事故当時就業中であつた原告にとつては、現に受けている収入をもとに算定するのが、賃金センサスをもとに算定するよりも予測上の誤差が少ないと考えられるので、同主張は採用しない。
8 将来の付添費 二九五三万三七九二円
前記認定の本件後遺症の内容、程度及び証拠(甲九、一〇、一二、三六の1・2、吹田ヱミ子、原告)によれば、原告は、本件後遺症のため、日常生活の上でも、母ヱミ子から食事を食べさせてもらつたり、紙おむつ、濡れティツシュ、ちり紙、ゴム手袋、オリーブ油等を使つての排便や二、三〇センチメートルの管を使用してのガス抜き及び自己導尿セツトによる二、三時間おきの排尿(夜中も三時間間隔)の介助、改造自動車の乗降の介助をしてもらつており、右状況は生涯にわたつて必要と認められる。そして、原告に対する一日当たりの付添費は四五〇〇円(年間一六四万二五〇〇円)が相当で、当裁判所に顕著な、平成二年簡易生命表によれば、原告の平均余命は、前記症状固定日現在、四七年(年未満切捨て。)と認められるから、その間の将来の付添費の症状固定日における現価を、中間利息の控除につき、ライプニツツ式(係数一七・九八一〇)によつて算定すると、二九五三万三七九二円となる。
1,642,500×17,9810=29,533,792
9 家屋改造費 五四〇万円
証拠(甲二九の1ないし12、三〇の1・2、原告)によれば、原告は、本件後遺症のため、車椅子での日常生活をする上で便利なように、自室を板敷にし、廊下を高くして平らにし、スロープを作り、土間の段差を板敷にし、風呂と便所を一人で使用できるようにする等の改造をし、そのため五四〇万円を要したことが認められる。
10 ベツド等購入費 六七万三七二一円
証拠(甲二六の1、原告・三五項)によれば、原告は、本件後遺症のため、背もたれ部分と足の部分が電動式で上げ下げして高さ調整ができる電動式ベツドを、平成三年七月二五日、三九万三四六〇円で購入したことが認められる。
そして、前記認定の原告の後遺症、平均余命によれば、原告は、一五年後、三〇年後にそれぞれ、同額の電動式ベツド購入の必要性があると推認されるので、将来の同費用の現価を、中間利息の控除につき、ライプニツツ式(一五年目、三〇年目の各係数は、〇・四八一〇、〇・二三一三)によつて算定すると、二八万〇二六一円となる。
393,460×(0.4810+0.2313)=280,261
以上小計すると、六七万三七二一円となる。
393,460+280,261=673,721
11 自動車改造費 六三万五六六一円
証拠(甲三三、吹田ヱミ子、原告)によれば、原告は、本件後遺症のため、退院後もリハビリテーション等その他のため外出の必要性があり、交通手段として、自動車に一九万五〇〇〇円をかけて改造したことが認められる。
そして、前記認定の原告の後遺症、平均余命及び自動車運転年齢を考えれば、原告は、今後、さらに、六年ごとに計5回まで、自動車の買換えごとに同額をかけて自動車を改造する必要性があると推認されるので、将来の同費用の現価を、中間利息の控除につき、ライプニツツ式(六年目、一二年目、一八年目、二四年目、三〇年目の各係数は、〇・七四六二、〇・五五六八、〇・四一五五、〇・三一〇〇、〇・二三一三)によつて算定すると、四六万〇六六一円となる。
195,000×(0.7462+0.5568+0.4155+0.3100+0.2313)=440,661
以上小計すると、六三万五六六一円となる。
195,000+440,661=635,661
12 将来の車椅子、円座購入費 三一万一三七四円
前記認定の原告の後遺症、平均余命によれば、原告は、本件後遺症のため、前記5認定の車椅子、車椅子に敷く円座(合計六万三八六〇円)が、今後、さらに、三年ごとに計一〇回、購入の必要性があると推認されるので、将来の同費用の現価を、中間利息の控除につき、ライプニツツ式(三年目、六年目、九年目、一二年目、一五年目、一八年目、二一年目、二四年目、二七年目、三〇年目の各係数は、〇・八六三八、〇・七四六二、〇・六四四六、〇・五五六八、〇・四八一〇、〇・四一五五、〇・三五八九、〇・三一〇〇、〇・二六七八、〇・二三一三)によつて算定すると、三一万一三七四円となる。
63,860×(0.8638+0.7462+0.6446+0.5568+0.4810+0.4155+0.3589+0.3100+0.2678+0.2313)=311,374
13 自己導尿セツト、紙オムツ、濡れテイツシユ等購入費
前記三認定の事実及び証拠(吹田ヱミ子、原告)によれば、原告は、本件後遺症のため、意識的な排尿、排便ができず、自己導尿セツト、紙オムツ、濡れテイシユ等が必要であると認められるが、症状固定日までに支出した分(甲一七の1ないし8、一八のないし7、一九の1ないし7、二〇の1)の大部分は、右4の入院雑費として考慮済みであり、それを超える分及び将来の購入費は、不確定要素が多いので、後記慰謝料の算定要素として勘案するにとどめる。
14 慰謝料 二四〇〇万円
前記認定の原告の受傷、入院期間、後遺症の内容、程度その他諸般の事情(ただし、過失相殺の点を除く。)を総合勘案すれば、原告の慰謝料は、二四〇〇万円を相当と認める。
六 過失相殺及びてん補後の損害額
前記四及び五に認定した原告の損害額を合計すると、物損が一八万一五三八円、人損が一億一八八三万四二八四円となるところ、前記二のとおりの理由で過失相殺し、右損害額の八五パーセントを算定すると、物損が一五万四三〇七円、人損が一億〇一〇〇万九一四一円となり、右人損から、当事者間に争いがない人損のてん補額七六二〇万円を差し引くと、弁護士費用を除く未てん補損害額は、物損が一五万四三〇七円、人損が二四八〇万九一四一円、以上合計二四九六万三四四八円となる。
七 弁護士費用 七〇〇万円
以上認定の事実及びてん補の時期を含む本件訴訟の推移を概観すれば、相当因果関係のある弁護士費用としては、七〇〇万円を相当と認める。
八 結論
よつて、原告の本訴請求は、被告に対し、前記六の弁護士費用を除く未てん補損害額及び右七の弁護士費用、以上合計三一九六万三四四八円及びこれに対する本件事故日である平成二年五月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 簑田孝行)
交通事故現場見取図 第2図
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